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訪問介護の基本報酬、増えたのは1単位だけ!?逆風の報酬改定を斬る。

公開日: : 最終更新日:2021/03/11 コラム , , ,

令和3年4月介護報酬改定、訪問介護はどうなる?

令和3年4月、介護保険の報酬単価が改定されます。

訪問介護を含めた介護保険サービスを提供することによって、事業所が受け取ることのできる報酬、これを介護報酬といいます。

介護報酬は国が決定した報酬単価に基づいており、これに加えて、地域加算などが加えられ、サービスを提供した事業所に支払われます。

報酬が高くなれば事業所に入るお金も増えるし、給料も上がる(かもしれない)。

ホームヘルパーは危機的な人材不足で、いくら募集をしても人が集まらない。さらに、追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染拡大で大きな打撃を受けている状況です。

令和3年4月の介護報酬改定は、訪問介護事業所に追い風となったのでしょうか

結果は・・・微増。+1単位増えただけ。

結論から言うと、微増です。ものすごい微々たる増加です。

基本報酬から見ていきましょう。

これが令和3年4月からの単位数です。

身体介護中心のサービスはこのようになっています。

提供時間改定前(現行)改定後(4月~)増減
20分未満166単位167単位+1
20分以上30分未満249単位250単位+1
30分以上1時間未満395単位396単位+1
1時間以上1時間30分未満577単位579単位+2
以降30分を増すごとに算定+83単位+84単位+1
生活援助加算+66単位+67単位+1

つづいて生活援助中心のサービスはこのようになっています。

提供時間改定前(現行)改定後(4月~)増減
20分以上45分未満182単位183単位+1
45分以上224単位225単位+1

びっくりするくらい微増。雀の涙とはこれのことか。

「1時間以上1時間30分未満」以外のサービスはみんなきれいに+1単位

これじゃ、訪問介護で働く人の待遇改善はできないし、人も集まらないですよね。

加算部分の変更について

加算の変更についても見ていきます。

大きくは変わりません。

生活機能向上連携加算は、通所リハビリや訪問リハビリの理学療法士や作業療法士のリハビリ専門職と連携してアセスメントを行い、計画を立案することによって得られる加算です。

もともと算定実績も少ない加算で、今回見直しをしたようですが、大きく要件は変わらず、たぶん、算定実績が大きく増えることはないでしょう。

訪問介護は通所系サービスと違い、加算も少ないので、基本報酬部分が増えない限りは売り上げが上がりません。報酬を増やすには訪問回数か利用者を増やしていくしかないですから、基本報酬がほとんど上がらないという時点で厳しい改定と言わざるを得ません

特定事業所加算は支給限度額の範囲外に?→ならなかった!(追記2021.03.11)

朗報と言えば、特定事業所加算が介護保険の支給限度額範囲外になったことでしょうか。→と思ったら、しれっと廃案にされていて、特定事業所加算も従来通り支給限度額の枠内に含まれることになりました。

ということで、訪問介護にとっては踏んだり蹴ったりの改定内容となっています。(追記2021.03.11)

これまで、24時間の連絡体制や職員研修などの用件を満たす事業所は特定事業所として認められ、基本報酬に上乗せで加算算定することができました。つまり、特定事業所加算を算定している特定事業所は特定事業所でない訪問介護事業所よりも高い報酬を受け取ることができました。

介護保険では、要介護認定の結果によって区分支給限度額という一か月のサービス利用可能額の上限が設定されます。訪問介護の特定事業所加算は、この区分支給限度額の範囲に含まれています。このため、報酬が高い特定事業所のサービスが多くなると、区分支給限度額をすぐに使い切ってしまう場合があります。

ケアマネジャーとしても、サービスが頻回になるケースでは、区分支給限度額を圧迫する特定事業所に依頼するよりも、特定事業所ではない訪問介護事業所に依頼をかけることが少なくありません。

特定事業所加算が区分支給限度額の範囲から外れることで、特定事業所への依頼がしやすくなったこと、また、特定事業所を算定するためのハードルが一つ減ったことはひとつの朗報だったかもしれません。

認知症専門ケア加算とは?

新たに追加された加算、認知症専門ケア加算というものを見てみましょう。

認知症専門ケア加算(Ⅰ) 3単位/日(新設)
認知症専門ケア加算(Ⅱ) 4単位/日(新設)

【算定要件等】
<認知症専門ケア加算(Ⅰ)>(※既往要件と同様)
認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者が利用者の100分の50以上
認知症介護実践リーダー研修修了者を、以下のように配置し、専門的な認知症ケアを実施
 ▽認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者が20名未満の場合は1名以上
 ▽同20名以上の場合は1に、当該対象者の数が19を超えて10又は端数を増すごとに1を加えて得た数以上
・当該事業所の従業員に対して、認知症ケアに関する留意事項の伝達または技術的指導に係る会議を定期的に開催

<認知症専門ケア加算(Ⅱ)>(※既往要件と同様)
・認知症専門ケア加算(Ⅰ)の要件を満たし、かつ、認知症介護指導者養成研修修了者を1名以上配置し、事業所全体の認知症ケアの指導等を実施
・介護、看護職員ごとの認知症ケアに関する研修計画を作成し、実施または実施を予定

シルバー産業新聞より

算定要件を見ていると、突然出てきた「認知症介護実践リーダー研修修了者」の文字・・・。

認知症介護の研修体系についてまず簡単に説明します。

都道府県・指定都市が実施する認知症介護基礎研修及び認知症介護実践研修を企画・立案し、講義、演習、実習を担当することができる能力を身につけるとともに、介護保険施設・事業所等における介護の質の改善について指導することができる者を養成することを目的とした研修です。

(「認知症介護実践者等養成事業の実施について」平成18年3月31日老発第0331010号厚生労働省老健局長通知)

この中で、実践リーダー研修は、ケアチームにおける指導能力及びチームマネジメント能力を修得するための研修とされています。

ただ、この研修を受講するためには介護現場での実務経験5年以上が必要になります。

研修費用もかかりますし、そうそう誰でも受けられるものではありません。

利用者の半数が認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上

もしこの研修修了者の人員が配置できたとしても、利用者の半数が認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上でなければいけない、という要件があります。

これ、簡単に言うけれど、相当難しいですよ。

Ⅲ以上になるのは、

・着替え・食事・排便・排尿が上手にできない、時間がかかる。
・やたらにものを口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声を上げる、火の不始末、不潔行為、性的異常行動等

これに該当する利用者ということです。独居高齢者の家事や入浴などを支援しているケースでこれに該当するのは少ないでしょうね。

となると、この加算に該当すると考えられるのは、認知症の方が多いサービス付き高齢者住宅併設の訪問介護事業所くらいなんじゃないかと思うんですけれど、どうでしょう。

そもそも訪問介護事業所はどうやって医師が判断する日常生活自立度の情報を手に入れるというのでしょうか。まさか、ケアマネから取り寄せろとか言わないですよね。

ということで、こんな加算ができても算定できる事業所はそうそうないような気がします

そこまでして実践リーダー研修を受けさせようとする訪問介護事業所がどれだけあるか。

まとめ:訪問介護にとってこの改定はかなり厳しい

簡単にまとめますと、今回の報酬改定。訪問介護事業所にとってのメリットはごくごくわずかです

むしろ、事業所単位で作成しなければいけない災害・感染症対策の事業継続計画や虐待防止委員会・研修、ハラスメント対策なども含め、義務付けられた事務負担の内容がたくさんあります。

デイサービスやショートステイなどの他のサービス種別がかなり上がっていて、通所リハなんか爆上がりしてますので、訪問介護にはますます人が集まらなくなることが予想されます。

訪問介護の有効求人倍率は15倍。15の事業所が求人情報を出して、スタッフを獲得できるのは1事業所だけという状況です。狭き門の反対で、パチンコでいえば常時フィーバー状態です。

人材を確保するためには給与を含めたスタッフの待遇を改善しなければいけないのに、これではどうしようもありません。訪問介護の人手不足を改善する機会を失ったことになります。

となると、訪問介護事業所にとっては相対的に大きなマイナス改定という見方ができそうです

訪問介護事業所にとって明るくないというよりも、逆風の報酬改定になったと申し上げたいと思います。

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