利用者からのセクハラ・パワハラ問題。ハラスメントからホームヘルパーを守るには。
全国で利用者からホームヘルパーに対するハラスメントが続出。
介護現場で、介護職員が利用者や利用者家族から受けるセクシャルハラスメント・パワーハラスメントが大きな問題となっています。これは訪問介護の現場でも同じです。自宅に訪問してサービス提供を行うホームヘルパーは、逃げ場がないことや、助けてくれる仲間もいないという状況の中、大きな不安を感じながら訪問している場合もあります。
今回はそういった訪問介護の現場でのハラスメント対策について記事にしようと思います。
被害を受けたホームヘルパーの声
このサイトの中にもセクハラを受けたホームヘルパーの声が多数書き込まれています。かなりリアルな内容なのですが、その一部を紹介します。
私が、ヘルパーなりたての頃、男性利用者さんから、性器を見せられたり〔排泄は自立されている方です〕、その他、言葉、視線・・などなど、セクハラを受け、そのつど責任者に報告し相談しましたが、とりあえず変われる人がいないから、がまんして行ってと言われ絶対やめる!と心で叫びながら、なんとかうまくやり過ごして、1年たち責任者が交代した時、もうこれが最後と新しい責任者に相談し、やっと担当をはずしてもらえました。
生活支援で伺っている独居の男性利用者さんで、やはり時々
わたしのおしりに触ってくる方がいて、この頃はその都度注意しています。
割合に大きな声ではっきりと、駄目ですよ、って。
利用者様で、体を触ってくる方がいます。
就寝・起床介助のときは胸を触ってくる
トイレ介助のときは私の股を触ろうとする
お風呂介助のときは見えてもないのに「おっぱいが見えてる」等の発言
端から見たら大したことないのですが。
私からすれば業務に支障が出る。気持ち悪い。ケアもセクハラされることによって入りたくなくなる。
そんな状態にも関わらず、リーダーは男性職員なので話したところで「あらら~」と言われて終わってしまう。
セクハラ内容は、「おっぱい触らせろ」、「ちんちん揉んでくれ」、抱きつく…などなど。
セクハラを受けること自体、介護職では珍しくないと思います。
私も初めてではないし、けっこう扱いには慣れているつもり。
冗談にまぎれさせてかわすこともできるし、ふざけてぺろんと触られたくらいなら、ぎゃぎゃー騒ぎません。
だ~け~ど…
その利用者さん認知症で不穏のケがあり、下手な対応すると、逆上して不穏を増長させるおそれがあります。
かなり生々しいリアルな体験談が書き込まれています。
でも、これらも氷山の一角でしかないのです。
介護職の73.5%がセクハラ・パワハラの被害を受けている
介護クラフトユニオンが発表した調査結果によると、介護職の73.5%が利用者からのセクハラ・パワハラといった嫌がらせを経験しているということでした。
この数字って、ちょっと異常ですよね。
そして、なんと被害を受けた人の28.8%はセクハラの被害を受けているということでした。
現場で働く介護職員はハラスメントの脅威にさらされているのです。
もちろん、こういった被害は今に始まったことではありません。
過去にはお茶やコーヒーに睡眠剤を混入し、ヘルパーに性的暴行を加えた利用者家族がいて、裁判になったケースもあります。
事業所の対応にも問題が
ハラスメントに関する投稿や調査の内容を見ていると、利用者側の問題はもちろん、事業所側の対応にも問題があることも多いようです。茶化したり、心無い言葉をかけたり、その状態を放置しておくような対応が多く、非常に残念です。
事なかれ主義に徹し、取り合おうとしない管理職。担当を変更しようとしないサービス提供責任者など。
利用者から、そして事業所から、介護職としてのプライドを傷つけられていき、仕事を続けることができなくなる介護職も少なくありません。
もちろん、事業所管理者やサービス提供責任者だけの責任とは言い切れません。2名体制で職員を配置できるだけのスタッフの余裕がなかったり、男性スタッフを入れたくても男性スタッフがいなかったり、男性スタッフがいても能力的にその利用者宅でのケアを実施できない場合があったり。
介護現場におけるハラスメントに関する調査研究
厚生労働省も重すぎる腰を上げ、介護現場におけるハラスメントに関する調査研究を行いました。
https://www.mri.co.jp/project_related/roujinhoken/uploadfiles/h30/H30_144_2_report.pdf
非常に残念なことに、こういったパワハラやセクハラを受け、仕事を実際に辞めたことがあるという人も多く、訪問介護の場合はその割合が最も高いことがわかりました。
介護現場におけるハラスメント対策マニュアル
厚生労働省は平成31年4月「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」を発表しました。 介護保険最新情報 vol.718としてリリースされています。
訪問看護ではありますが、事例としてセクハラに対するフローチャートを作るなどしてマニュアル化している事業所のケースなども紹介されています。
訪問介護の事業所の事例としては、契約解除事項について詳しく具体例を挙げた契約書を作成している事例が紹介されていました。
<契約を解除する場合の具体例の記載>
暴力又は乱暴な言動
・物を投げつける
・刃物を向ける、服を引きちぎる、手を払いのける
・怒鳴る、奇声、大声を発する など
セクシュアルハラスメント
・訪問介護従事者の体を触る、手を握る
・腕を引っ張り抱きしめる
・女性のヌード写真を見せる など
その他
・訪問介護従事者の自宅の住所や電話番号を何度も聞く
・ストーカー行為 など
ここまで書くと相手側に不快感を与えそうな気もしますが、最初に伝えることが重要なのではないでしょうか。相手に知らせるだけでなく、スタッフにも契約内容について周知を図ることも大事です。基本的には契約は管理者かサービス提供責任者が行うことになるので、契約内容について十分に理解していないヘルパーも多いと思います。著しい不信行為などがあった場合、契約解除権があることも理解しておくべきでしょう。
事業所内での研修・ケースカンファレンスでハラスメントへの対応を
もちろん、厚生労働省がマニュアルを作ればそれでヘルパーを守れわけではありません。事業所内で職員の研修などを通して、ハラスメントへの対応策を協議したり、ケースカンファレンスを行うことも重要です。専門職として訪問しているという意識を忘れずに、誇りをもって業務にあたることが大事です。
ごく一部の利用者や家族によるハラスメントで、訪問介護の仕事を辞めることになるなんて本当に悲しいことです。自分のケアが悪いんじゃないかと必要以上に自分を責めてしまうヘルパーがいることも残念ですが事実です。
ホームヘルパーとして、ハラスメントに負けない強さは我慢することではありません。ひとりで抱え込むことではなく、共有し、解決につなげることが大事です。
もし抱え込むだけで終わっていたら、一人のヘルパーが苦痛を抱えるだけになってしまい、その利用者や家族が抱えている問題にはスポットが当たらないままになってしまいます。こういった問題を共有し、解決に向かっていくことで、ハラスメントに至る背景にスポットをあてることや、隠されていた利用者や家族の問題が明らかになることにつながる可能性もあります。
ハラスメント耐性のあるヘルパー事業所とは、ハラスメントに黙って耐えることではなく、ハラスメントに対して適切に対処していく力のある事業所です。
卑劣なハラスメントによって介護の仕事を諦めるホームヘルパーが一人でも少なくなることを願っています。
参考書籍として、訪問看護事業協会が出版したものですが、訪問看護・訪問介護を対象にした暴力・ハラスメントの予防と対策の書籍がありますので、紹介します。
メディカ出版 (2019-03-07)
売り上げランキング: 5,269
こんな本も出版されました。
幻冬舎 (2019-07-31)
売り上げランキング: 2,300
こんな書籍も出版されています。
「介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント」
密室で、利用者が本能をむき出しに。そのとき、どうする?
amazon商品説明より
介護問題の対処法と解決法がわかる!
介護職は重労働のうえ低賃金であるため、人手不足が続いている。
それなのに2018年の調査では、なんと4割の介護ヘルパーがセクハラを受けたと回答。
介護歴28年、百戦錬磨の著者自身も、利用者から幾度となくベッドに誘われたり、
パンツを下げ性器を見せられ迫られたり、キスをされそうになったりしたが、見事にかわし仕事をこなし続けてきた。
そして「♯Me Too」運動以降、セクハラをなくそうという流れは一気に加速。
介護職におけるパワハラ・セクハラをなくし、介護職をよりやりがいのある仕事にするためのヘルパー奮闘記。
むむむ・・・すごいですね。「介護ヘルパーは見た」という本も書いていますが、そのときのインタビューの様子はこちら
アドセンス336
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