介護の働き方改革。有給休暇、残業時間、ホームヘルパーの働き方はどう変わる?
「令和」時代の働き方
平成31年度がスタートしました。新元号「令和」の発表で幕を開けた4月1日でしたが、そんな4月1日から介護労働についても大きな変化がありました。
それが「働き方改革関連法」の施行です。
労働基準法等の法律改正が昨年6月に国会で成立、これが「働き方改革関連法」と呼ばれるようになり、平成31年4月1日に施行されています。
労働者の健康やワークライフバランスを守るための労働環境を作ることを事業者に義務として課したものです。これはすべての事業者に適用される法律になるため、介護や医療の現場でも当然適用されます。
介護に携わる人たちの働き方はどのように変わるのでしょうか。
働き方改革関連法のポイントは
働き方改革関連法のポイントは主に三つ。
1.時間外労働の上限設定
2.年次有給休暇の取得義務化
3.同一労働同一賃金
これらを具体的に訪問介護の現場で、この働き方改革によってどのような影響があり、ホームヘルパーの働き方がどのように変わるのかを中心に考えていくようにしましょう。
時間外労働の上限設定。ホームヘルパーの残業はどう変わる?
残業時間の上限設定
今回の働き方改革では長時間労働を見直すことで、労働者の働きすぎを防止することも目的としています。そのひとつが、この時間外労働の上限設定。いわゆる残業の制限設定です。
これまで、残業時間については上限がなかったのですが、今回の働き方改革で、残業時間は月45時間・年360時間以内にするように定められました。月に20日間勤務するとして、月45時間の残業時間となると、一日当たりおよそ2.25時間以上の残業を毎日していたらこの上限を超えることになります。それならば上限に関係しないかな、と思う方もいるかもしれませんが、問題は年間360時間の方です。一年間の労働日数は260日(年間休日105日)と考えると、一日あたり1.4時間の残業でこの上限を超えてしまうので、年間の残業時間は特にチェックが必要になりそうです。
ただ、例外も存在するので、臨時的で特別な事情がある場合として、労使双方が合意する場合は年間720時間(月100時間未満・複数月平均80時間未満)まで例外的に認めてます。管理する側だけでなく、労働者側もチェックする意識が必要になりそうです。
訪問介護の労働時間を目に見えるようにする
訪問介護事業所の就業形態については介護労働センターが調査を行った平成29年介護労働実態調査の結果を見ると、正規雇用の職員が36.2%、非正規雇用の職員が62.0%と圧倒的に非正規雇用が多いという特徴があります。
デイサービスや特別養護老人ホームといったほかの事業種別と比較しても、最も非正規雇用の職員の割合が高いのが訪問介護です。
直行直帰の職員も多く、労働時間の管理については把握することが難しいという特徴があります。報告書作成や緊急的・臨時的な訪問対応など、イレギュラーな労働が発生しやすい訪問介護というサービスにおいては、時間の管理は非常に困難です。
つまり、労働時間を目で見えるようにすることが重要になります。手書きの出勤簿をまとめて提出するのではなく、出退勤の記録をスマートフォンで連動させることや、利用者宅にICタグを設置して入退室の記録をスマートフォン経由で事業所に発信できるようにするなど、勤務時間が目に見えるようにするためにICTを活用することは有効です。利用者さん宅に訪問し、挨拶を済ませてまず「ピッ」とスマートフォンで入室記録を送信する、というパターンが定着していくかもしれませんね。
年次有給休暇取得年間5日間の義務化。
有給休暇取得義務に違反すると罰金30万円
年次有給休暇といえば、労働者の権利、と思っている方が多いかもしれませんが、これが義務になったということです。
有給休暇は年間5日分取得しないと、事業者側が30万円の罰金を支払わなければいけないのです。
上司が労働者の意向を聞き、それを踏まえて有給休暇を取得する時期をあらかじめ指定することもできるようになりました。
介護現場で有給休暇消化を進めるためには
介護現場は施設なども含め、365日稼働しているところも多く、シフト制を取り入れている事業所が多いと思います。
土日祝日は必ず休めるというところの方が少ないのかもしれません。
となると、シフトの中に公休で希望休の予定を入れていくと、なかなか有給休暇の消化が進まないという場合が多いのではないでしょうか。
あらかじめ、この月に取得する、ということを労使双方で決めておき、その時期に消化できるように調整することも求められます。
ホームヘルパーの有給休暇取得を増やすには
ホームヘルパーの勤務については、基本的には一週間のスケジュールの中で利用者に担当者が割り振られていく形になるので、ヘルパーが有給休暇をとることでその利用者の枠を誰かが埋めなければいけません。
有給休暇を消化する時期が何人かのヘルパーで重ならないように、そして代わりに訪問するヘルパーへの引継ぎなども含めて準備していくことも必要です。
同一労働同一賃金
賃金や待遇の格差を是正する
先にお伝えした通り、ホームヘルパーとして働く職員の多くは非正規雇用です。今回の働き方改革では、同一労働同一賃金を掲げています。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間にある格差を埋め、多様な働き方を実現し、生産性を向上させる狙いがあります。労働者人口が減少している中、女性の働き手などを増やしていくことも大きな狙いの一つです。
当然、企業側にはコストもかかり、休職や休暇なども正職員同様に付与しなければいけなくなるので、非正規職員のモチベーションが上がる半面、企業側がクリアしなければいけない問題は山積しています。
訪問介護のサービスを提供している事業者の多くは中小企業に分類されると思いますが、中小企業の場合は一年間の猶予期間が設定されていますので、この一年間でその課題解決に取り組まなければいけません。
罰則自体はありませんが、だからといって企業として取り組まなくていい問題ではありません。
ホームヘルパーにとっての同一賃金同一労働
ホームヘルパーとして働く職員にとってはどうでしょうか。
サービス提供責任者や管理者は緊急時の対応や契約、計画書の作成など様々な責任を負っています。
今回問題になるのは、それ以外の正規雇用職員と非正規雇用職員の待遇格差が大きい場合を是正していく必要があります。非正規雇用の場合、事業所によって様々な雇用形態があり、時間給の場合や件数給の場合などもあります。
非正規職員が賃金や待遇の格差を感じずに働き続けるために、労働条件の整備や場合によっては働き方を変える職員も出てくるかもしれません。
働きやすい職場環境を作る
ここまで働き方改革について、ホームヘルパーとしての労働にどのような影響が考えられるのかを見てきましたが、多様な働き方が存在することは必要だと思います。
訪問介護は危機的な人材難の中、多様な働き方を認め、適切なワークライフバランスのもと、ステップアップする仕組みを作ることが重要です。
待遇や職場環境をPRしていくことで、人の集まる訪問介護事業所を作っていくのが理想ですね。
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